今度は、前ノ間から座敷を見てみましょう。
部屋は8畳、前ノ間と同じように、い草シートが3列に敷いてあります。
正面中央に丸柱の床柱〈とこばしら〉があります。
左側に床〈とこ〉、右側に両開きの押入と神棚、柱を挟んで右側に仏壇があります。
本来、右側半分は「床脇」になりますが、使い勝手を考えてのちに改修されたようです。
両開きの扉も、仏壇上の小壁板も、柱も、全部新しいものですね。
定番だと、床の左側は「書院」になります。
でも、滑川H邸ではガラス障子戸を挟んで向こうは広縁にしています。
これも使い勝手を考えてのことでしょう。
つまりこの床は、「床+床脇+書院」の基本形式から「書院」を省略、
「床脇」は押入などに改修した構成といえます。
左側のガラス障子戸と、右側の襖の上部はともに差鴨居で長押はありません。
前ノ間と座敷の間も差鴨居だったので、ここではコの字に差鴨居が廻っている
ことになります。
ちなみに、床は、床柱、床框〈とこがまち〉、地板〈じいた〉、落掛〈おとしがけ〉が
定番の部材です。
座敷や和室の意匠には数え切れないほどの決まりごとがあり、
それだけで1冊の本にまとめられるほどなので、ここでは1カ所だけ触れておきます。
落掛は見付幅を鴨居よりも少し太くするのが決まりです。
で、見付は柾目とします。
写真では柾目が見えにくいですが、確かにそのようにつくられていました。
床の正面に座り、軸などの飾りを下から見上げると落掛の下端も見
見付を柾目とすると見込(この場合下端)は板目になるので、
節をさけたり乱れた板目になっていないかなど、丁寧な仕事では
下端の見え方にも気を配ります。
ただ、落掛の位置がちょっと変則的で、通常より位置が少し高く感じられます。
そのぶん、小壁が狭い。
よく見ると、左側の差鴨居の天端と落掛の天端を揃えていました。
それが理由のようです。
以上よりこの座敷は、
書院造りのようなガチガチの座敷の構成というより、
適度に省略された農家に合う力強くてサッパリとした座敷といえるでしょう。
これはこれでよいものです。
で、天井を見上げると、座敷の中央に南北に配された床梁があります。
根太と2階の床板をあらわした「根太天井」ですね。
そして、その下には・・・このブログでも何度も取り上げました、
おなじみの「碍子引き配線」です。
床梁の下にクリートを取り付けて、電線は昔のまま布で被覆しています。
隣の部屋からの壁貫通には碍管が使われていました。
正しい碍子引き配線です。
いまなお現役で使われているということで驚きました。
ただ、ここは改修時に撤去してすべて新しい電気配線に取り替えます。