ぐるっとまわって、東側の妻面です。
2階の梁間(建物の幅)が2間半(4,550㎜)なので、小ぶりなかわいさが際立っています。
妻面に正対して見ると、破風板の形がよく分かりますね。

東側の妻面。2階がちょこんと載っている感じがかわいらしい
写真左側(南側)の軒の出は約4.5尺(1,365㎜)、
右側(北側)の軒の出は3尺(910㎜)、
若干違います。
錆びて茶色に変色しているため見えにくいですが、破風板の先端には
飾り金物が付いています。

鯖の尾。雨水から木口を守りつつ、デザインで魅せる
一方が二又に分かれています。
これは「八双金物」〈はっそうかなもの〉、「鯖の尾」〈さばのお〉といいます。
破風板の先端や重厚な門扉に使われることが多い金物です。
おそらく竣工時から付いていたもので、茶色に錆びている様子から
素材は亜鉛鉄板(いわゆるトタン)かと思います。
60~70年くらい経てば、このくらい錆びてしまうのは仕方がありません。
破風板の木口を風雨から守る役目は十分に果たしているでしょう。
コストを優先するならこのままでも構いません。
取り替えるとすればトタンではなく、現在一般的に使われている耐久性の高い
ガルバリウム鋼板とするのが定番です。
さらに耐久性の高い銅板という選択肢もありますが、
全体的な印象からすると、銅板ではバランスが悪くなりそうです。
写真は、東京にある護国寺惣門の扉です。
江戸時代中期、元禄年間の建物で、文京区の指定有形文化財になっています。

護国寺惣門の扉の鯖の尾
こちらの鯖の尾は、飾りでもありますが扉の補強を主目的としています。
なので金物が厚めです。
他の飾り金物と同じように緑青をふいています。
ということは、素材は銅板ですね。
さて、
西側に比べると、破風板・押縁下見板・板金包みなどの構成は同じです。
ひとつ違うのは、窓の上に小庇〈こびさし〉がある点です。

窓の上の小庇。これがあるとないでは、雨の吹き込みに大きな差が出る
庇の出は2尺(610㎜)程度、垂木のサイズが小さく、ピッチは150㎜と細かく入っています。
意匠的な決まりごとや大原則をいうと、
「大きいところは大きくまばらに」「小さいところは小さく細かく」。
部材はそんなふうに構成します。
思い出してみましょう。
外壁の下見板の押縁は455㎜ピッチでしたが、戸袋鏡板の簓子は150㎜ピッチでした。
同様に、
屋根の垂木のピッチは364㎜でしたが、小庇の垂木は150㎜です。
それは瓦も同じです。
門や塀などの瓦は屋根より一回り小さな瓦を使います。
大寺院の本堂のような大規模な屋根は、座布団くらい大きな瓦を使います。
大きいところは大きく、小さいところは小さく。
このような視点で古民家や古建築を見てみると、新しい発見があるかもしれません。