外観から分かる構造上の特徴を見てみましょう。
ぱっと目に飛び込んでくるのが、2階の「出桁造り」〈だしげたづくり〉です。
2階の窓の上に、軒先に向かって「腕木」〈うでぎ〉が出ているのが分かります。
その腕木が先端で桁〈けた〉を支えています。
桁の上に載っているのが屋根を支える「垂木」〈たるき〉です。
これを出桁造りといいます。
通常の構造では、垂木は窓の直上に出てきます。
しかし、この建物はいったん桁を前に出し、その上から垂木を出しています。
桁を出すから出桁、「出桁造り」と呼ばれるゆえんです。
出桁造りは、地域によっては船枻〈せがい〉とか、せいがい造りとも呼ばれます。
街道沿いにある宿場町の町家や大型の農家民家によくある形式です。
軒の出を深くしたい、雪の重みに屋根が耐えるようにしたい、重厚で豪華な雰囲気を
出したい、そんな理由で採用される工法です。
建物によっては、出桁を前面の1方向にだけ、L型に2方向、コの字に3方向、
思い切ってぐるりと四方、など桁の出し方はいろいろです。
現在の住宅で軒を深くするときは、登り梁〈のぼりばり〉にしたり、垂木の成〈せい〉
(高さのこと)を大きくしたりするので、出桁を見ることはあまりありません。
ちなみに、古民家を改修する際、ここに軒天を張ってしまうとせっかくの出桁が
隠れてしまいます。
こういうところは極力残したい部分です。
もちろん、滑川H邸ではそんなヤボなことはいたしません。
出桁をよく見ると、腕木の下にボルトの座金とナットが見えますね。
腕木と出桁をボルトで緊結しているわけです。
少し分かりにくいですが、腕木の上には軒天が水平に張ってあり、
吹き寄せの小舞(中央に2本の横木)が並んでいます。
これは定番の手法です。
いまの住宅では、こういう洒落たデザインはまず見られません。
正面から見ると、柱・腕木・出桁・垂木などの架構が整然としているのがよく分かりますね。
柱間は1間(6尺)で、メートル法でいうと1,820㎜です。
腕木は柱に揃えて配置、そのあいだを5等分して垂木を出しています。
現在の住宅の垂木は、1.820㎜を6等分した約300㎜か、4等分した455㎜のピッチで
配置されます。
5等分の364㎜はあまり使われません。
でも、この5等分が素晴らしい!
300㎜ピッチだとちょっと細かい感じがして隈研吾っぽくなります。
かといって、455㎜ピッチではやや間延び感が出ます。
1間を5等分する364㎜ピッチは、垂木が主張せず、かといって大味にもならない
じつに絶妙な寸法なのです。