カテゴリー: 滑川H邸 2020.12.29

滑川H邸徹底解剖 ⑮水墨を発見

小屋裏を深掘りします。

 

以前も書きましたが、ハツった曲がりのある小屋梁がふんだんに使われているのが

分かります。

小屋裏の様子。梁にうっすら墨のようなものが・・・

梁の側面を見ると、墨で何か書いてあるようです。

 

これは水墨〈みずずみ、[陸墨:ろくずみ]とも〉と呼ばれるもので、

水平の基準となる線です。

梁の中央部を拡大。これが水墨です

梁がどれだけ曲がっていても、どれだけ傾いていても、

水墨が引かれていれば、その線が建物の水平を表す線として機能します。

 

大工さんはこの線を頼りに、他の梁や柱・束などの高さ関係を決めていきます。

「七寸上」と書いてあるようです。おそらく小屋組みの基準となる小屋梁の水墨から7寸(約212㎜)上がったところがこの墨で、曲がった梁の水墨として小屋束にささるホゾの高さを決めているのだと思います。七寸上のニョロニョロは、この線が水墨であることを示す記号です。ニョロニョロの書き方は大工さんそれぞれに流儀があります

部材の垂直を表すために上下中央に引かれる線を心墨〈しんずみ、真、芯とも〉と

いいますが、水墨と心墨を一緒に墨付けできると、

どのような曲がり梁でも加工が可能になります。

 

 

「曲がり」というのは単純な湾曲だけではありません。

ぐにゃぐにゃと3次元的に曲がっているものでも加工できます。

 

また、梁は水平ではなく勾配していても組むことができます。

 

 

 

曲がった梁に正確に墨付けをして架構を組むのが昔の大工さんの

腕の見せ所でした。

古民家ならではのダイナミックな空間のハイライトともいえます。

 

 

現在の大工さんでも墨付けに慣れている人は難なくこなしますが、

プレカットの部材に頼り切った経験不足の大工さんなら、

墨付け・加工は難しいと思われます。

 

 

小屋裏に、このような味わいある梁が隠れていたら儲けものですね。

「春日権現験記(かすがごんげんげんき)」という鎌倉時代の絵巻物。墨付けの様子が描かれています。①下の絵は、丸太の心墨を出すために曲尺(さしがね、差し金、指矩とも)を当てているところです。②中央の絵は、平角(ひらかく:長方形)に加工する際に余分を削るための墨を付けているところです。③上の絵は、平角に成形した梁をさらに2分割しているところです。大工道具が発達した近世以降はあまり見られないやり方です。 出典:絵図大工百態

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