カテゴリー: 滑川H邸 野地 2020.12.24

滑川H邸徹底解剖 ⑭野地板は腐らない

ハツリ跡の次は、野地板に着目してみましょう。

小屋裏全体の様子

1間(1,820㎜)を5等分した垂木の上に野地板が載っています(参照:出桁造り)。

 

野地板は厚みが3~4分(9~12㎜)程度で、丸太を挽き割ったままの

耳付き板(スギかな?)です。

幅や形が丸太の形状そのままですね。

耳付きの野地板が垂木の上に並ぶ

昔は耳付き板が普通に使われていましたが、しだいに耳を落とした「バラ板」

(幅3~4寸[90~120㎜]程度)が張られるようになります。

 

さらに現在の家づくりでは、写真のように野地板どうしの隙間を空けて

張るようなことはしなくなりました。

 

 

現在、最も普及している工法は、無垢板ではなく構造用合板を張るものです。

 

910×1,820㎜の構造用合板をパタパタと一度に広く張っていきます。

このほうが手間が掛からないうえに、屋根面の剛性も高まります

(滑川H邸も瓦を葺き替えた際に、既存の野地板の上に構造用合板を

張り重ねています)。

 

 

 

では、そもそもなぜ昔の家は野地板の隙間を空けて張っていたのでしょうか?

 

それは、野地板やその上に葺く材料が「腐らないようにするため」です。

 

 

昔の家は(ほかの材料もそうですが)屋根下地が自然素材で構成されていますので、

室内(小屋裏)と屋外のあいだに湿気の移動(排湿)ができるような隙間を

開けておかないと材料がすぐに腐ってしまったのです。

 

隙間の幅は広かったり狭かったりいろいろですが、いずれにしろ隙間が必要でした。

 

 

 

野地板の上に葺かれる材料は、スギ皮か薄く剥いだ板〈枌板:へぎいた、

野根板:のねいた、トントンとも〉がほとんどでした。

 

滑川H邸は瓦屋根なので、おそらくスギ皮だったでしょう。

スギ皮の上に土を葺いて瓦を載せる構成です。

別の現場ですが、古民家の瓦を外したところです。下から葺き土が現れました

土の葺き方は2種類ありました。

 

全面に土を葺く「べた葺き」と、筋状に土を置く「筋葺き」です。

これは地域によって異なります。

 

 

瓦の下に土を葺くメリットは、主に以下のとおりです。

 

・粘土の粘着力で瓦が剥がれにくくなる

・湾曲した瓦が馴染みよく葺ける

・屋根面の断熱性、遮音性が高まる

・瓦の隙間から入った少量の雨が土やスギ皮に染みて雨漏りしなくなる

 

 

スギ皮や葺き土は、万一濡れても天候が晴れになれば、

瓦の隙間から水分が蒸発したり室内側に湿気が向かったりして

乾きました。

 

 

昔は湾曲した瓦を精度よくつくったり、瓦を隙間なく葺くことが難しかったので、

瓦の隙間から多少は雨が入ることを許容しつつ、雨漏りせず屋根が長持ちする工夫を

いろいろ考えたわけです。

 

 

 

ところで、

古民家を解体すると、スギ皮の下葺き材をよく目にします。

どのスギ皮も数十年は経っていますが、腐っているものを見たことがありません。

葺き土を取り払うとスギ皮が出てきました。写真はほかの場所から1枚だけ外して持ってきたものです。まったく腐っていません。

むろん、瓦が割れたりズレたりすれば雨が染みて腐りますが、

そうではない健全な屋根の場合、スギ皮はまず腐りません。

スギ皮を剥がしたところ。その下にある野地板も腐っていませんでした

さて、

とある文化財修復の現場での経験です。

昭和初期に施工されたスギ皮の部分はなんともなかったのですが、

その後改修された部分は、スギ皮の代わりに張ったルーフィングフェルト(防水紙)が

ボロボロになっていました。

 

自然由来の素材も健全な状態が保てれば、耐久性が著しく向上するということです。

 

工期、コスト、法規的な条件を考慮すれば、いまは自然素材だけで家をつくることは

難しいですが、昔の知恵のよい部分は現在の工法にもなるべく活かしたいものです。

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