築60年超の古民家をエアコンのいらない家仕様で改修した滑川H邸。
竣工写真と見比べながら、ビフォーアフターを解説していきます。
まずは座敷。
これまで座敷と呼んでいた場所は、いまふうに言えばリビングに
変わりました。
元の趣きを壊さないように、床の間の構成はそのままにして
仕上げなどを変えました。
改修前は深緑色の繊維壁、床の間は黒色の壁。
ここを白漆喰にして明るく凛とした雰囲気に変えています。
「天照皇大神」の掛け軸が掛かる床の奥の壁は、以前は真壁でした。
ここは外部に面する壁のため、既存の土壁の上にボード系の断熱材を張り
漆喰で仕上げています。改修前よりも断熱性能が向上しました。
断熱材と下地+漆喰の厚みの分だけ奥の壁が手前にきます。
以前は見えていた入隅の柱が見えなくなって、大壁仕上げになりました。
これは茶室の伝統的な手法です。
塗廻床〈ぬりまわしどこ、室床[むろどこ]とも〉といって、
同じように入隅柱を土壁で塗りまわして見えなくすることがあります。
下の写真は国宝「妙喜庵待庵」の塗廻床です。
待庵は二畳敷と極限まで狭く、床の入隅柱を塗り廻すことにより奥行き感を
曖昧にしています。
空間の薄暗さとあいまって二畳以上の広さを感じさせます。
ちなみに、改修後に白くなった床の間の壁は
いまはスクリーン代わりにしてプロジェクターで映画などを楽しまれているそうです。
縁側との仕切り。
以前はガラス障子戸でしたが、ここに前ノ間と座敷との間にあった
大阪障子を移動させてはめました。
差鴨居が同じ高さで廻っているので、高さの調整が不要で交換は容易でした
(調整にそれなりの時間はかかりましたが)。
根太天井はそのままです。
ただ、照明器具を2灯に変えています。
屋内配線はすべて一新したので、「碍子引き配線」は撤去しています。
碍子マニアとしては少し残念な気もしますが、ここに「インテリアとしての碍子」を
付けると少々野暮ったい感じになりますし、照明器具とも合いません。
撤去が賢明でしょう。
畳と襖は新しくしました。
清々しいですね。
いまどきの襖は柄を無地にすることが多いですが(そもそも襖自体が少ない)、
当家の家紋に由来している「松」をあしらった柄でリニューアルしました。
襖と開けると、奥は6畳間の寝室です。
ここに新たに寝室を設けました。
奥の窓は、改修前は掃出し窓でした。
しかし、改修後はここから外へ出入りする必要がないので腰窓に変更しました。
こちらは北側になるので、この窓からは冬の日射取得が期待できません。
開口部を大きくすると寒いだけです。
採光と通風が確保できる窓があれば十分なので腰窓で正解でしょう。
夏はこの窓を開くと、南側の縁側→座敷(リビング)→寝室というルートで
風が抜けていきます。
エアコンがなくても心地よく過ごせる寝室です。