カテゴリー: 断熱気密 2021.2.1

古民家の「断熱」の話をしよう ②さらば省エネ基準

「建物を断熱する」という行為はいまやあたり前のように行われていますが、

その歴史はとても浅いものです。

 

今回は断熱の歴史を、「基準」という物差しを使って振り返ってみたいと思います。

 

 

そもそも断熱材は、壁や床下にただ入れればよいというわけではなく、

新築であれば一定の基準を満たすことが目標になります。

 

 

その基準がどこからきているのかといえば、

「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」、通称「省エネ法」のなかに

「住宅」と住宅以外の「建築物」の省エネルギー基準として示されています。

省エネ法の原文。殺風景

省エネ法とは、1970年代に2度起こった石油危機(オイルショック)を契機に、

1979年(昭和54年)に制定された法律です。

 

 

住宅であれば、外壁や窓からの熱損失を少なくするために断熱性能を向上させ、

光熱費など住宅に使われるエネルギーの消費量を削減しようというのが目的でした。

 

法律の趣旨からも分かるように、そもそも建物の断熱性能とは

「エネルギー消費量の削減」という観点から求められたものです。

 

 

断熱というと、快適さであるとか、健康的な暮らしであるとか、

そういったことをイメージされる方も多いかと思いますが、国としては当初

あくまでエネルギー削減のためにやってくださいねというのが本旨でした。

 

 

この方向性はいまも変わりません。

 

 

断熱の基準とは、一義的には昔も今も建物を快適にするために定められた

ものではないということです。

 

 

 

(1)旧省エネ基準

 

1980年(昭和55年)になると、告示で具体的な基準が示されます。

 

たとえば東京に建てる住宅であれば、

天井はグラスウール40ミリ、壁はグラスウール35ミリなどと、断熱材の種類と

その厚さが明示されました。

 

いまとなっては貧弱な断熱性能ですが、当時の住宅金融公庫(現・住宅金融支援機構)の

工事仕様書にこの基準が記載されたため、この頃から東京のような温暖地においても

住宅に断熱材を入れるという行為が一般的になり始めました。

 

この基準を「旧省エネ基準」といいます。

 

 

旧省エネ基準の断熱性能を、後年制定された品確法(住宅の品質確保の促進等に関する

法律)で位置づけると、「断熱等性能等級2」に相当します。

 

 

4段階のうち、下(悪い方)から2番目の性能です。

省エネ法の変遷

 

 

(2)新省エネ基準~平成28年基準

 

その後、

1992年(平成4年)に断熱性能の基準が強化された

「新省エネ基準、断熱等性能等級3」が誕生します。

 

さらに、

1999年(平成11年)には断熱基準の強化と夏の暑さを防ぐ日射遮蔽性の基準が

加わった「次世代省エネ基準、断熱等性能等級4」が出てきます。

 

そして、
2013年(平成25年)には断熱と日射遮蔽性能基準はそのままに、

設備機器などの「一次エネルギー消費量」基準が追加されます。

これは「平成25年基準」と呼ばれました(改正省エネ基準と呼ばれたりも

しますが、これはあまり定着していません。ネーミングが謎すぎるのも

一因かと思われます)。

 

またまた、

2016年(平成28年)には「平成25年基準」を一部改正して

「建築物省エネ法」と枠組みが変わります(平成28年基準)。

 

 

 

わずか30年にも及ばない短期間のうちに、断熱の基準は次々と上書きされて

いったわけです。

コロコロ変わる省エネ基準。断熱材の厚さも時代によって変わる

基準の愛称(というのかな?)を見れば分かりますが、

そこには各基準の名称を定めた人の大局観のなさがよく現れています。

 

 

以前の基準を「旧」と呼んで、新しい基準を「新」と呼べば、

その後に改正があったときのネーミングに困ることくらい分かりそうなもの

ですが、そういうことは一切考慮せず、1992年の新しい基準は

あっさり「新」と呼んでしまいました。

 

もしかすると、当時は新基準のまま30年くらいはいけそうだと踏んでいたのかも

しれません。

 

 

でも、次の改正は早くも7年後にやってきます。

 

 

さて、この基準を何と呼ぶか。

 

 

「新基準」の次に「新新基準」とするわけにもいかないので、

いろいろ考えて「次世代」としたのでしょうが、次世代の次は何にするつもりか、

たぶんこれも考えていないと思います。

 

「平成25年基準」や「平成28年基準」は、断熱性能の基準そのものは同じなので

「次世代省エネ基準2.0」「次世代省エネ基準3.0」としてもらったほうがまだ

全体像をつかみやすいような気がしますが、そこはあっさり年数だけにされて

しまいました。

 

メンバーチェンジの激しいモーニング娘。の最後に年数を付けて

「モーニング娘。’20」などと呼ぶようになったのとなんとなく似ています

(ちがうか)。

 

 

ちなみに、「あぶない刑事」劇場版タイトルの変遷は以下のとおりです。

 

1987年『あぶない刑事』

1988年『またまたあぶない刑事』

1989年『もっともあぶない刑事』

1996年『あぶない刑事リターンズ』

1998年『あぶない刑事フォーエヴァー』

2005年『まだまだあぶない刑事』

2015年『さらばあぶない刑事』

タカとユージの愛車、日産レパード。いまはプレミア価格で取引される昭和の名車

省エネ基準は、石油危機、地球環境破壊、CO2削減や温暖化防止などの

社会情勢を反映して改正と基準の強化が繰り返されてきたわけですが、

このネーミングの変遷を見ても分かるように、

要は場当たり的な対応に終始してきたというのが実態でしょう。

 

そのたびに現場の設計者や職人たちは右往左往させられてきました。

おそらく今後もそれは続いていくはずです。

 

 

 

なお、断熱材自体の歴史はもう少し古く、戦前にグラスウールやロックウールの

国内生産が始まりましたが、当時はまだ高価だったため普及には至らず、

寒冷地の北海道の住宅では、1950年(昭和25年)頃まで「おが屑」「もみ殻」といった

自然系の廃材を断熱材として使っていたようです。

 

1953年(昭和28年)に「北海道防寒住宅建設等促進法」、通称「寒住法」が制定されると、

コンクリートブロック造の住宅が建てられたり断熱材のグラスウールが徐々に使われ始めた

ようです。

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