カテゴリー: 断熱気密 2021.2.14

古民家の「断熱」の話をしよう ④熱の移動は3種類

古民家の「断熱」の話をするといいながら、なかなか本題に入りません(笑)。

 

今回は断熱のおおもとになる「熱の移動」の話です。

 

 

断熱という言葉は、いまではあたり前のように使われていますが、

そもそもどのような意味かご存じでしょうか?

 

建築界の広辞苑、私の座右の書でもある「建築大辞典」を引くと、

じつは【断熱】単独での語釈は掲載されていません。

困ったときの「建築大辞典」

【断熱〇〇】のように断熱を含む単語が項目にあがっています。

 

そのなかで最も簡素な言葉が【断熱材料】です。

建築大辞典によると、【断熱材料】の語釈は「熱の侵入や放出を遮断するための材料」。

 

そこから【断熱】とは、「熱の流れ・移動・出入りを遮ったり防いだりすること」

と分かります。

また、その役割をする材料が断熱材というわけです。

 

 

断熱は「熱」を「断つ」と書きますが、

厳密にいえば「熱の移動を断つ」のが断熱なのです。

断熱とは熱の移動を制限すること

 

熱の移動は3種類

 

熱の移動(伝わり方)には、以下3つの基本形態があります。

 

・伝導

・対流

・放射(輻射とも)

熱の移動の3形態

 

【伝導】

 

物質内部の分子運動によって熱が伝わることをいいます。

 

たとえば、ストーブに火をつけるとストーブ内の温度が上がって、

ストーブの本体である鉄板も熱くなります。

 

これは、鉄板内側の鉄内部分子が激しく振動、運動して、

鉄板の表面に熱が伝わったためです。

 

この形態が伝導です。

伝導。「分子運動」というのがポイント

なにか物を触ったとき、「熱っ」と感じる。

これも伝導によるものです。

 

 

ちなみに、伝導による熱の伝わり方は物質の密度に比例します。

比重の大きいものほど熱がよく伝わります。

 

固体 > 液体 > 気体 の順です。

 

 

これを最も身近に感じられる例はサウナでしょう。

 

50℃の熱湯風呂(液体)に入ると火傷しますが、

50℃のサウナ(気体)に入っても火傷はしませんよね。

むしろ、ぬるく感じると思います。

 

それは、熱の伝わり方が物質によって違うからです。

 

 

 

 

【対流】

 

液体や気体などの流体が温度差によって移動し、

同時に熱も移動することをいいます。

 

なぜ移動するのかというと、

水でも空気でも、温められると膨張して密度が小さくなり軽くなるからです。

逆に冷たくなると重くなり下降します。

 

 

この現象を身近に感じられるのは、冬の室内でしょう。

 

冬に暖房をつけると、頭ばかりが暑くて足元は寒いという現象が起こります。

これは、温かくて軽い空気が上にあがっていくからです。

 

 

また、ストーブをつけると、ストーブから離れた部屋の端にいても

暖かく感じられます。

それは、ストーブで温められた空気(気体)が動いて部屋の隅々まで

熱を運んでくれたからです。

対流。温かい気体が動くと離れていても暖かくなる

同じように、ストーブの上に置かれた鍋の中の水(液体)は、

ストーブに接して熱くなっている底だけでなく、

鍋の中の水全体を温めてお湯にします。

 

これも、温められた水が鍋の中をグルグルと動く(対流)からです。

 

 

 

伝導と対流の違いをまとめておきましょう。

 

伝導=分子運動により熱が移動する(物質は移動しない)

対流=物質の移動により熱が移動する

 

 

 

 

【放射】

 

物質の表面から発する赤外線などの「電磁波」により

熱が伝わることをいいます。

 

3つの中ではこれが一番難しい概念かもしれません。

 

あらゆる物質は、その温度に応じたある種の見えない波(電磁波)を

表面から発しています。

 

熱いモノだけでなく、われわれの体の表面からも波は常に出ています。

その波が赤外線です。

 

 

 

このところ、いろんな場所で体温を測られる機会が増えましたが、

体温計をおでこに向けてピッとやるやつがありますね。

 

体に触れずに体温を計るものですが、あれはおでこの表面から出ている

赤外線の波長を計測して体温に置き換えているのです。

放射を利用した機器がこんなところに

 

もう一つ放射の身近な例は、これもストーブです(ストーブばかりですみません)。

 

ストーブに当たっているとき、

ストーブ側の体は暖かくても、ストーブに面していない背中側は寒いと思います。

 

これは放射のせいです。

 

 

放射は「熱」を「光」に置き換えて考えると、とたんに分かりやすくなります。

 

光(放射)が当たっている面は明るく(暖かく)なりますが、

当たっていない面は暗く(冷たく)なりますよね?

 

また、ストーブに当たって暖かさを感じているとき、自分とストーブの間に

誰か別の人が入ると暖かさが激減しませんか?

 

熱(光)がさえぎられたせいだと考えれば、この現象もすっと理解できると思います。

放射。熱を光に置き換えてみると分かりやすい

 

放射の特徴は、伝導や対流と違い「物質を介する必要がない」という点です。

 

物質を介する必要がないので、はるか遠くにある太陽の熱も

真空の宇宙空間を経て地球に届くのです。

これすべて、電磁波のおかげです。

 

 

 

なお、少し専門的な話になりますが、

放射のエネルギーは距離の二乗に反比例して減少します。

ストーブの近くに手をかざすととても熱いですが、

ストーブから離れると放射による暖かさは感じにくくなり、

代わりに対流で運ばれてきた空気の熱で温かさを感じるようになります。

 

 

 

常に決まっている熱移動の「方向」

 

さて、

伝導、対流、放射による熱の移動には、ある大原則があります。

 

それは、

温度差があるところでは、必ず温度の「高い方」から「低い方」に

熱が伝わっていくということです。

 

 

水は高いところから低い方へ流れますね。

その逆はありません。

水は高い方から低い方へ。熱も高い方から低い方へ。人は易きに流れる。悪貨は良貨を駆逐する。なんでも方向が決まっています

同じように熱も、高い方から低い方に流れます。

 

 

伝導、対流、放射。

形態はどうあれ、熱は高い方から低い方へ移動する。

 

その移動、つまり高い方から低い方へ移動しようとする熱移動を断つこと。

それが断熱であり、そのための材料が断熱材です。

 

 

 

以上、断熱における熱移動のお話しでした。

 

 

 

今回は物理入門のような話で少し難しかったかもしれません。

 

ただ、伝導、対流、放射の概念を理解して熱の移動を常に意識しておくと、

断熱を考えるうえでの失敗がなくなります。

また、快適な住空間をどうやってつくればよいかのきっかけをつかめます。

 

 

 

ちなみに、

水の入ったコップを持つと、コップの冷たさが手に伝わってきます。

 

でも、それが「かんちがい」だということはすでにお分かりいただけたと思います。

 

その瞬間、コップと手のあいだに起こっている現象は、

「手の熱がコップ側に移動して熱を奪われた」です。

 

手の温度が下がると同時に冷たさを感じたのです。

こういうこと

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