現代の建物で、「碍子引き配線」が採用されることはまずありません。
法律で禁止されているから?
いえいえ、碍子引きは意外にも法律で禁止されているわけではないのです。
現代のビニルケーブルによる配線に比べると、施工手間が異常に掛かるうえ
コストアップにもなるので、誰もやりたがらないだけなのです。
そんななか、
あえていま、碍子引きを採用してみようという方がまれにいらっしゃいます。
多いのは、古民家カフェやレストランのオーナーさんで、
昔風のインテリアを演出するパーツとして
多少のコストアップには目をつむり、
あえて碍子引きをやってみたいとおっしゃることがあります。
ただ、現代の碍子引きは、昔は問題にならなかったある重大な問題に直面します。
それは、照明器具やコンセントの数が異常に増えている現代の建物では、
ふつうに碍子引きをやると、天井が碍子と配線だらけになって、
人によっては「気持ち悪っ」という状態に陥ってしまうのです。
ですから、いま碍子引きをやりたいという方には、
まずどの部屋でやるかを決め、さらに照明器具の配線だけ碍子引きにするなど、
配線を限定することを私はオススメしています。
電気設備の設計や工事をする場合は、
「電気設備の技術基準の解釈」という技術的な要件を満たす必要があります。
そのなかで、碍子引きについては、主に次のようなルールがあります。
まず、「屋内で碍子引きが許されていない場所」について。
■点検できない隠ぺいされた場所
たとえば、1階の天井と2階床の間で碍子引きはできません。
専門用語で「懐:ふところ」といいますが、そういう場所に碍子は使えないのです。
1階の天井に点検口を設けても、そこから懐内にあるすべての碍子引き配線を
点検できないかぎり施工は禁止です。
ま、いま碍子引きをやりたい人は、それを「見せたくて」やるわけなので、
わざわざ隠ぺいされる場所でやりたいという人はまずいませんね。
そんなわけで、現代の碍子引きは、
分電盤から隠ぺいされている部分まではビニルケーブルで配線し、
見える部分から照明器具までを、IV線を使って碍子引きとするのが常套手段です。
つぎに、配線方法について。
配線には絶縁電線を使用しなければなりませんので、
昔のように布を巻いた電線はもちろん使えません。
現在、一般的に使用されているのは、ビニルで被覆された屋内配線用の
IV線〈アイブイセン〉です。
このIV線をノップ碍子に添わせ、バインド線で結べば碍子引き配線の完成です。
ノップ碍子を造営材(柱や梁など建物のこと)の上面や側面に取り付ける場合は、
碍子の間隔を2m以内にして、IV線がたるまないようにします。
IV線と建物などとの距離は2.5cm以上。
碍子引き配線同士の距離は6cm以上。
水道管、ガス管、電話線などとの距離は10cm以上。
配線が貫通する部分や配線同士が交差する部分には「碍管」〈がいかん〉を使います。
碍子引きを美しく見せるコツは、一にも二にもIV線をたるませずピンと張ることです。
レトロ感を出したければ赤色のIV線を使うといいかもしれません。
昔の布で巻いた電線は赤色をしていましたので。
素木〈しらき〉で塗装していない建物なら、黒色のIV線もカッコイイです。
あと、可能なら碍子の配置を厳密にレイアウトしていくこと。
安藤忠雄がセパ穴の位置をミリ単位で指定していくのと同じ感覚です。
言うまでもありませんが、電気工事は工事士の資格がない人はできません。
間違っても、DIY感覚でやることがないように。
とはいえ、
「うちは碍子引きが得意です」という業者さんが近くにいることは滅多にありません。
資格試験で出題されるのでいちおう勉強はしていますが、ほとんどの業者さんは
実務での経験がまずないのです。
碍子引き最大の問題は、じつはそこかもしれません。