卓越風を生かす開口部
夏はエアコンのいらない古民家店舗

山田屋商店[古民家改修]

東西に風が抜ける

山梨県富士吉田市にある古民家店舗の改修事例です。上吉田は富士講で栄えた御師(おし)の町として知られ、約450年前の町割がそのまま残る歴史ある集落です。この古民家は築160年。うなぎの寝床のような東西に細長い短冊状の敷地に建ちます。

店舗出入口は2間幅。フルオープンにできるため、夏場はここから入った風が店舗奥へと抜けていきます。建物は改修時に曳家を行ない、前面道路から奥まった位置まで移動させました

敷地の南北は間口が狭く、お隣さんも迫っているため、南北方向の採光・通風・日射熱が期待できませんでした。お施主さんの話では「ここは東西方向に風がよく通る」とのこと。近隣の気象台で卓越風を調べたところ、たしかに年間を通じて敷地の東西に風が吹いていることが分かりました。

 

風の入口となる東側は店舗の出入口。風の出口となる西側に開口部を設ければ自然風による通風が可能になります。幸い店舗裏側(西側)に中庭スペースを確保できたため、店舗入口の東側から入った風が店舗奥の西側に抜けていくルートを確保できました。うなぎの寝床ながら、夏場は店舗内に風が通り抜けるさわやかな環境を構築できました。

店舗裏側(西側)。勝手口(建物中央)と座敷の掃き出し窓(建物右側)が見えます。裏側の出入口や窓は中庭に面した風の出口となります

店舗内の座敷から入口側を見たところ

間仕切りは少なく。トップライトで熱のこもりを解消

店舗内の間仕切りは極力少なくしました。間仕切りが必要なところは障子を引き込めるようにして、店舗内を風が滞りなく抜けていくような工夫をしています。

店舗中央部は吹抜け。見上げるとダイナミックな梁組みが圧巻です。しかし、南北が狭く採光が期待できないため、せっかくの梁組みも暗くなりがち。そこで、小屋裏にトップライトを設けて梁組みが自然光で照らされるようにしました。トップライトは開閉式のため、夏は吹抜け上部にたまった熱気が、開いたトップライトから外へ抜けるようにしています。

店舗入口付近。重厚な柱梁で支えられた開放的な空間です。奥に座敷が見えます

小上がりから入口方向を見たところ

豪壮な梁組み。改修前は天井が張られていて何も見えませんでした。そういう場所に再び脚光を当てるのも古民家改修の醍醐味です

改修時に新設した吹抜けのトップライト。暗くなりがちな梁組みを明るく照らします。夏は熱気抜きとして活躍

屋根。室内の力強い梁組みをそのまま見せるため、断熱は屋根上でしています。断熱材の分だけ一部屋根が厚くなっていますが、軒先は薄く軽やかに仕上げました

断熱の強化と温度差の緩和

店舗の床は御影石張り。コンクリートの下に断熱材を敷いています。それでも冬場は足元の温度が低くなり、吹抜け上部に暖房の熱がたまります。お施主さんは対策としてシーリングファン(天井扇)を希望されましたが、ファンを設置するとせっかくの梁組みが台無しです。

そこで、吹抜け上部にダクトを設け、上部の暖気を回収して式台の下から吹き出させる仕掛けをつくりました。小上がりの床下に設置したファンにより暖気が式台下から吹き出します。これにより室内上下の空気が大きく循環するため、店舗全体の温度差が少なくなり快適な環境がつくられます。

床は御影石仕上げ

小上がり。写真中央部の黒いダクトで吹抜け上部にたまった暖気を小上がり下に引き込みます。回収した暖気は式台の下から吹き出させ、暖気と冷気を撹拌して上下の温度差を少なくします

(意匠設計:N設計アトリエ)